病理医・細胞検査士の育成に役立つホームページを
このホームページは、病理医の皆様、甲状腺疾患患者とのセコンドオピニョンコンサルテーションを目的にスタートいたしました。併せて、甲状腺病理の最近の知見、覚道の国際共同研究活動の紹介を目的として運営しています。また和歌山県立医科大学第2病理学教室の同門会のコミュニケーションの場としても活用したいと考えています。
2011年和歌山県立医科大学を退職後は、神戸常盤大学細胞検査士養成コースの担当者として、2014年神戸常盤大学を退職後は、やました甲状腺病院、近畿大学奈良病院、岡本甲状腺クリニック、和泉市立総合医療センター病理診断科、甲状腺疾患センターなどで、非常勤病理医、常勤病理医として病理診断、細胞診断を担当してきました。
和歌山県立医科大学名誉教授、山東大学、山東省第1医科大学、近畿大学の客員教授の肩書で、甲状腺専門の病理医として教育、研究、国際的な学術活動を続けました。国内では、日本病理学会、内分泌病理学会、がんセンターのコンサルテーション委員として、病理診断コンサルテーションで、甲状腺病理を担当いたしました。
国際的な研究活動では、2016年に境界腫瘍noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features (NIFTP)の提唱に参加し、引用回数1500回以上のNIFTP提唱論文(PMID: 27078145)の共著者となりました。この結果から第4版(2027年出版)、第5版WHO分類(2022年出版)に、著者として参加しました。その他にも、日本甲状腺学会甲状腺結節診療ガイドライン2013、甲状腺細胞診ベセスダ分類第2版(2018年出版)、第3版(2023年出版)の著者として出版事業にかかわりました。
2017年、多くのアジアの病理医、細胞病理医の賛同を得て、Asia Thyroid Working Groupを結成し、2017-2022年の初代会長に就任しました(PMID: 37981725)。このアジアの病理医を中心とする活動で、『甲状腺診療における欧米とアジアの差異』に注目した出版を続けています。このグループ活動から甲状腺疾患の病理学的解析/研究、甲状腺細胞診断にかかわる100編以上の共同研究論文が生まれました。和歌山県立医科大学退職時には、PubMed収載論文は240篇程度でしたが、1976年に第一英語論文を書いてから、この記事を書いている2025年8月までに、52年間の病理医生活で、PubMed収載論文が400篇を越えたことも誇りとしています。またAsia Thyroid Working Groupのメンバーを中心として、2023年Springer社より、第3版Thyroid FNA Cytology, Differential Diagnoses and Pitfalls(https://link.springer.com/book/10.1007/978-981-99-6782-7)を出版しました。幸い好評で、この本のおかげで、WHO Reporting System for Head and Neckの編集者の一人に選ばれました。現在2026年出版を目指して編集作業に取り組んでいます。
これからも、若手病理医の教育、コンサルテーション、患者のセカンドオピニョンを含めて国際共同研究活動に努力したいと思っています。
2025年8月吉日
覚道健一
覚道健一 Profile:
和歌山県立医科大学人体病理学前教授
和歌山県立医科大学名誉教授
近畿大学医学部客員教授
中国山東大学客員教授
元理事(日本病理学会、日本臨床細胞学会、日本内分泌病理学会、日本甲状腺外科学会)
コンサルテーション
有料でのコンサルテーションをお受けいたします。
病理医の方からは甲状腺領域だけでなく腫瘍病理全般のコンサルテーションをお受けしたいと思っています。
臨床医の方からもセカンドオピニオンとして、また患者の方からも、治療に関与しない病理医として、甲状腺の病気を持つ患者の不安の解消や、最適の治療へのアドバイスとして、患者本人からのコンサルテーションをお受けしたいと思います(第3者からのコンサルテーションは受けません)。それぞれの項目を参照ください。
和医大退官記念講演
2011年3月17日(木)に開催された退官記念講演の映像です。
第61回日本臨床細胞学会総会、要望講演『甲状腺ベセスダ診断様式を取り入れた時、欧米と同じ結果が期待できるか?』2020年横浜
若年型甲状腺癌研究会第一回国際シンポジウム:若年型甲状腺癌の過剰診断『あなたの甲状腺結節は、患者の死ぬ癌?死なない癌?』2020年奈良でWeb発表した。
若年者の甲状腺癌は転移・再発が多いが予後は極端に良くその原因は長らく謎とされてきたが、近年の臨床的エビデンスの蓄積からその謎の一端がわかってきた。
微小乳頭癌の経過観察のデータ等から、微小乳頭癌は30代以降の成人では高頻度で存在し、中年以降はほとんど成長せず逆に相当数が縮小することがわかった。また、微小乳頭癌が癌死を引き起こしたり、未分化転化するという従来信じられてきた仮説には否定的なエビデンスが出ている。福島県での若年者の甲状腺 癌の大規模スクリーニングの結果から、超音波でしかみつからない甲状腺癌は10代以降その頻度を急速に高め、これらの癌はサイズの大きいものほど成長が遅 くなることから将来的には成長を止めることが推測される。
これらのエビデンスから甲状腺癌の自然史について以下の通りであることが考えられる。甲状腺癌の大部分は年少期に発生し、10-20代で急速に増大し、転移・浸潤をきたす。これらのごく一部は若年期に治療を要するサイズまで増大するが、残りの大部分は成長期を終えると増殖を止め微小癌の状態で一生とどま る。中高年で発生する癌死につながる甲状腺癌はこれらとは基本的に発生母地が別である。
我々はこのような若年者に発生する癌を従来の甲状腺癌と区別して若年型甲状腺癌(juvenile thyroid cancer)と名付け、またSelf-limiting Cancer(SLC,自 己限定的な癌)と呼んでいる。SLCは従来の中高年で見られる甲状腺癌と同じように転移・浸潤はするが成長に限りがあるので患者を滅多に殺さない。SLCの早す ぎる診断は患者に過剰診断の被害をもたらす半面、生存率やQOLの向上に役立たない。またその初期の成長過程にある時にサイズが小さいからと言って縮小手術 をしてしまうと再発率の上昇につながってしまう。
従来、“がん”という病気に対しては早期診断・早期治療が金科玉条のように言われてきたが、甲状腺癌で初めてその詳細が明らかになったSLCの存在はその常識 を覆した。“早すぎる診断”が対象者に害を与えるがんがあることを十分認識して診療しなければならない時代がやってきたのである。
第53回日本内分泌外科学会シンポジウム3「外科医に知ってもらいたい甲状腺腫瘍の病理診断最前線」2020年、東京でWeb発表した。
2017年WHO腫瘍分類(内分泌腫瘍)第4版が出版され、甲状腺腫瘍分類に多くの改訂点がとり入れられた。本講演では低分化癌に焦点を絞り、癌取り扱い規約、 WHO分類での診断基準の変遷について解説する。甲状腺腫瘍分類全体の改定点については総説(Kakudo K et al. Pathol Int 68:641-664, 2018 and Bai Y et al. J Pathol Trans Med 投稿中)を参照いただきたい。
1983年癌研の坂本らにより、低分化癌の診断名が甲状腺腫瘍分類に提唱されて以来、診断基準、疾患概念/定義の異なる低分化癌が複数発表され、最終的に第4版 WHO分類ではトリノ診断基準が採用されることとなった。そのため、坂本の低分化癌は国際社会で定着しなかった。この結果から、本邦では低分化癌の診断に混 乱があり、病理医がどの診断基準で低分化癌を診断するかで、低分化癌の頻度、術後の再発率、予後(腫瘍死)に違いが生じる。臨床医は担当病理医がどの診断 基準に準拠し診断したかを確認する必要がある。第4版WHO分類では、
1)トリノ診断基準採用を明記し充実/索状/島状癌に低分化癌を限定した。
2)高悪性度組織所見(核分裂像[3個以上/10高倍率視野]、腫瘍壊死、脳回状核)の内、1項目を低分化癌の必須の組織所見とした。
3)低分化成分(充実/索状/島状)が腫瘍の50%以上を占める癌と規定した。
4)疾患特異5年生存率は50-70%程度の報告が多い。
5)坂本の低分化癌の頻度は甲状腺癌の10%程度とされていたが、この変更により、稀な(1%程度)腫瘍となった。
第7版甲状腺癌取り扱い規約でも、このトリノ基準が採用された。しかし、トリノ型の低分化癌と別に、乳頭癌、濾胞癌への分化を示す高悪性度甲状腺癌(米国 MSKCC提唱の低分化癌や坂本の低分化癌)が存在する。これらの混乱を解決するために、細胞増殖分画に注目し、演者は甲状腺腫瘍のKi67標識率を用いた予後分 類を2015年に発表した(Kakudo K et al. Endocr J 62:1-12, 2015)。増殖分画高値(Ki67標識率>10%)を用いれば、トリノ型低分化癌を含む全ての高悪性度 甲状腺癌を抽出できる。










