病理診断の特色ならびに、患者が病理診断を病理医から直接お聞きになる意義について

2011/09/16 17:42

(病理学会ホームページより改変)

1.病理診断の特色

1)正常と異常とは?

病理診断は、主に病気で変化する組織や細胞の形をもとにして下されます。つまり「正常」からどのくらいかけ離れているかで診断するのです。2つの絵を比べる間違い探しを考えて見ましょう。「2つの絵の中に5ヶ所の間違いがあります」と言われても、全部を見つけられない場合があります。また、絵の中には、たとえば帽子をかぶっているのといない、という「違い」と、野球のバッターボックスでテニスラケットをかまえているような「違い」があります。前者は違うけれど間違いではなく、後者は明らかに「間違い」です。顕微鏡で見て正常との違いを見つけ、さらにそれが本当の「間違い(たとえば癌)」かどうかを見分けているのが病理医ということになります。形態の変化は数値で現れるものではありません。場合によっては、白か黒かではなく、連続性に白に近い灰色から黒に近い灰色までが存在することもあります。判断が大変に難しいものや、人によって意見が異なることも出てきます。従って、診断名だけを見ると、あっちの病院では「癌」と言われ、こっちの病院では「癌じゃない」と言われ…ということも起こりうるわけです。実は病理診断の報告書には、観察された所見だけでなく、診断の根拠、鑑別診断の必要性、経過観察の希望など、さまざまなことが書かれています。臨床医から伝えられる「診断名」だけでは、プロとして診断した病理医の診断内容やその根拠までは理解されないこともあるでしょう。

2)採取部位や所見の意味

一般的な病理診断は、採取された組織や細胞について下されます。正しい診断のためには「病変部」が正確に採取されていることが大前提になります。たとえば、胃がんがあっても、がんの周りの組織が提出されれば「胃炎」という病理診断が下されることもありうるわけです。大きな卵巣腫瘍などでは、場所によって悪性の度合いが違うこともあります。どこを顕微鏡標本とするか、選択の「眼」が大切になりますが、はじめに作った標本で「悪性所見」がなくても、あとで追加して作製した標本で悪性部分がみつかることもあるのです。その場合、診断名だけみて「診断が変わった、はじめが間違いだった」と誤解されてしまうのは、患者さんにとって不幸なことです。

2.インフォームドコンセントの考え方

インフォームドコンセントは、病気について患者さんやご家族にきちんと説明し、同意を受けた上で、納得して治療を受けていただこう、という考え方です。
「病気のことは医者に任せて、黙って言われる通りにしていればよい」と考えられる方もいるでしょう。でも、病気は手術や薬だけで治るものではありません。患者さんも自分の病気を理解して、一緒に戦っていただかなければならないのです。病理診断は、たとえばがんの場合は「最終診断」になり、治療方針もそれに基づき決定されるのです。その大切な診断について、十分な説明を受けて納得して治療を受けたい、そのために診断した病理医から直接話を聞きたい、という方もおられると思います。自分が戦う「病気」の顔つきを見てみたい、自分の身体を蝕んでいる「がん細胞」を見てみたい、という方もおられるでしょう。私たち病理医は、そのようなご希望に応えていきたいと考えています。

3.病理医に求められるセカンドオピニオン

生検をした主治医から説明を受ける場合の問題点を考えてみましょう。臨床医の大部分は、血液や尿の検査と同じように、採取した細胞や組織を病理に提出し、報告書を受け取ります。患者さんは「標本を見ていない」臨床医から、標本についての説明を聞いているのが現状なのです。医学部ではもちろん、病理学の講義や実習があります。これを履修しなければ医者にはなれません。しかし、学生の中には「顕微鏡が苦手」という者や、試験は何とか通ったけれど病理学は苦手という者もいます。臨床医の中にはそんな先生が決して少なくありません。病理診断報告書に書かれたことが、必ず全て正確に患者さんに伝えられるとは限らない、というのは言い過ぎでしょうか。もちろん、多くの場合は「病理診断名」だけ伝われば十分ですし、少なくとも間違って伝えられることはありません。とはいっても、病理標本の所見について、一番詳しくご説明できるのが病理医であることは確かでしょう。

診断結果の伝わり方も、話し方でずいぶん印象が違ってきます。たとえば、治療方針について、外科医だけでなく内科医や放射線科医の話を聞いてみたいと思われることがあると思いますが、病理医も病気を診断するプロとして、他の科の先生方とは違った視点からの説明ができることがあります。病理医は報告書の中に、病理のプロとしての意見を書いてありますから、それをご覧いただくのも一つの手だと思います。ただし、臨床医に宛てた専門的な報告書の内容は、一般の方々にご理解いただくのが難しい場合があるかも知れません。

病理診断は医行為です。日本病理学会には専門医制度があり、厳しい試験で「病理専門医」を認定しています。自分の病気について主治医だけでなく他の人の意見も聞いてみたい、と思われたとき、病理医に直接尋ねるのが重要な選択肢の1つだと思います。

4.病理診断についてのセカンドオピニオン

病理診断は形態を観察して下されるため、数値で「~以上だから異常」とできるものではありません。病理医は、体中の全ての臓器・組織に対する診断を求められます。臨床各科の診療は日進月歩であり、病理診断もそれにマッチしたものでなければなりません。日本病理学会では、診断講習会などを通じて病理医に対する教育活動を活発に行っています。しかし、そのような勉強を続けていても、病変によっては診断に迷うことや、病理医間で意見が異なる、という場合もありうるのです。このため、日本病理学会の中には「コンサルテーション・システム」(プロの病理医同士が互いに相談しあう標本郵送システム)があり、難しい症例の場合には、専門とする病理医に意見を聞くことができるようになっています。

一般の方からすれば、どの病理医が自分の病気の「専門家」なのかわからないでしょう。それぞれの病理医は患者さんの病気に対して、責任を持って病理診断をしています。しかし、患者さん自身がご自分の病気の“肝腎要の病理診断”について、「もう一人、別の病理医の意見を聞いてみたい」とお求めになれば、病院から紹介してもらうことができるはずです。これは他の臨床科で行われている、他の病院の先生にセカンドオピニオンを求める場合とまったく同じです。


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